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鬼軍曹と呼ばれた元上司の思い出

今日は、私が秘書を長く続けるきっかけになった方の話です。

 

私の秘書としての基本を文字通り叩き込んだ
「鬼軍曹」「秘書を鍛える最右翼」とも呼ばれた
ある上司の話をします。

 

 

この方はKさんといって日本人男性のエグゼクティブで、
読書家で、趣味が多彩な方。

 

とっても頭の良いスマートなジェントルマン、というのが第一印象でした。

某外資系企業に大学を卒業後35年ほど働き、
その後退職と同時に経営陣の一人として日系の大企業に移籍。

ここはIT企業だったのですが、海外案件などを
担当するエグゼクティブとして活躍しました。

 

 

Kさんが移籍してくるタイミングで外資系企業のやり方と
日本の大企業と両方に対応できる英語もできる秘書を
新たに外部から雇うということで、ご縁があって
私が担当秘書として採用されたというわけです。

Kさんの仕事を行うのは当時、とてもとても大変でした(笑)

移籍先の企業は人柄重視で物事を進めがちな日本のオーナー系大企業。

 

 

そこに外資の中でも最もトレーニングが厳しいと
言われていた某企業から「効率重視」「結果が全て」
の鬼軍曹が乗り込んできたのですから。。。

周囲とペースがまったくあいません。

摩擦ばかりが起きます。。。

 

Kさんはとにかく秘書の仕事への向き合い方について
めちゃくちゃ厳しくて、特にスケジューリングに関してはまさに鬼でした。

ご自分でも、前職では秘書を鍛える最右翼と言われてきたとの過激発言あり

そういえば採用の面接の時にも、

「自分の秘書の人選は自分の仕事にとってとても重要なことだと思っているし、
スケジューリングは全面的にまかせます」

と言われました。
(これって、外国人エグゼクティブの場合と同じことを要求していますね・・・)

 

 

例えば、

・面談リクエストの報告の5W1Hができていないと
怒鳴りつけるし、やり直しを命じる・・・・

・一件10分単位の会議スケジュールを終日びっしり作成させる。
(当時はメールも発達していなかったので、電話とメールの併用。
スケジューリングでの数稽古、千本ノックを毎日していた感じ)

・社用車のルートを組む時に運転手さんのランチタイムが
確保できていないと、秘書に大目玉

・時間を読み間違えて車が渋滞に巻き込まれ、
訪問先に間に合わないと、秘書に怒りの電話

(この場合、車内電話から運転手さんに聞こえるように怒りまくることで
運転手さんと気まずくならないために秘書を叱る作戦かと)

・ここには書けない泥臭い仕事も多数(泣)

 

 

そんなあれこれを繰り返す戦友同士のような日々・・・

 

実はKさん、細かいところにものすごく気がつく方で、
今言おうと思っていたのに!と思っていたミスを見つける速さはピカイチ。

そんな時は烈火のごとく怒り、言い訳は一切聞きません。

なぜかここだけ英語で「ノーディスカッション!」(黙れ、もういい)と追い出される。

こんな繰り返しでものすごく鍛えられたと思います。

 

 

Kさんの外面は鬼軍曹でも、実は、私と後任の秘書の二人は
よ〜〜く分かっているのですが、とっても秘書思いの方でした

(ちゃんと休憩を取っているかなど、密かに気にしているし、
あらゆる面で細やかな気遣いが感じられる)

 

 

常識人なのに時にエキセントリックで、
理屈の通らないことや無駄なことはしない、
いつも反体制側の姿勢をとり弱者の味方。

 

 

物事の本質に迫る姿勢を貫いたので敵も味方も多く、
でも味方の数は敵をはるかに上回りました。

 

徹底して自分の方針を貫き通す、愛すべき上司でした。

 

そんなこともあって、その担当していた業界での業績を残しており、
業界にも多数の仲間や強烈なファンや支持者がいるようでした。

 

 

 

日常のエピソードとしては、トラブルがあって
関係者と真剣なミーティングをしていても
最後にはかならず「ガハハ」と笑いあって終わらせていること

(注:アハハ、とかゲラゲラではなくてガハハです 笑)

お茶を出したり伝言を伝えに行ったりして
「ガッハハハ」といつもの豪放磊落な声が聞こえると

あ、予定通りうまくいっているな、とホッとしたものです。

一緒に仕事をさせていただいて、散々怒られても、
1日の最後はガハハと笑い飛ばしてくれるので、
その時の安心感と言ったらなんとも表現のしようがありません。

同時に、これが真のリーダーのあるべき姿よねと思ったものです。

 

 

 

さて、時は流れ、お世話になっていた当時のKさんの
年齢に自分が近づいています。

 

Kさんはその後、大手企業の相談役や
コンサルタントなどもしていましたが
すでに現役を引退してここ10年ほどは悠々自適・・・

 

地元でコーラスに参加したり、
家族を大切に、お孫さんと仲良くしたり。

年一度の年賀状だけでお互いの様子を知る状況でした。

そう、気づくとKさんもすでに80代となり、
「高齢なので年賀状はやめます」と2年ほど前に連絡がありました。

 

 

連絡が途絶えていることを気にして
・・・ここのところどうされているかな?
と思っていた矢先の訃報でした。

 

お通夜に駆けつけて見た遺影は、
野球帽を斜めにかぶって、ラフな服装。

 

仕事場では見たことのないような満面のビッグスマイルでした。

 

大企業の役員時代、オーダーメイドのキリッとした
スーツを着こなしていた当時の厳しい表情とは別人。

 

 

 

 

 

お通夜ではKさんの仲間たち、業界の重鎮たちが
集まって、思い出話に花を咲かせていました。

 

その様子を見ながら私たち移籍先でお世話になったスタッフは
ちょっと疎外感を感じながらも不思議な安心感を感じていたように思います。

 

あのスマイルの写真を見た元仲間、同僚や部下はきっとホッとしたことでしょう。

「現役は退いたけど第二の人生を十分に楽しく過ごしました」
というメッセージだったように感じます。

 

表立ってはわからない政治的なことも多いエグゼクティブの世界。
特にキャリアの晩年、移籍後は決して良いことばかりでなかったのは、
そばにいて良くわかりました。

 

 

元企業のエグゼクティブの葬儀では
活躍していた頃のスーツ姿の凛々しい写真を
遺影に使う方の方が多いかもしれません。

 

 

しかしあの、野球帽で笑っている写真って、
きっと生前に本人が奥様に指示したんだろうな、と感じました。

 

 

それにしても、笑顔が素敵な写真でした。

「大丈夫だよ、ガハハ。今日の仕事はこれでおしまい」
といつもの口調で言われたような気がします。

 

 

お通夜に弔問に行ったはずなのに、
なんだか励まされて清々しい気持ちで帰ってきました。

 

 

帰り道は私の後任の秘書の方と元補佐の方と思い出話をしながら帰ってきました。
思い出話をこうやって綴れるような上司に巡り合えて幸せだったと思います。

 

初出版の著書にも、担当したエグゼクティブと
して設定を変えて登場していただいたのに連絡が途絶えていたので報告もまだでした。

 

 

今、これを読んでくださっている方にお伝えしたいことは、
大切なこと、優先順位の高いことは、
思い立った時にその場で実行に移しておきましょう、ということ。

 

 

特に大切な人に会うことは最優先で。

人に会うことって或る日突然叶わなくなります。
相手の都合や自分の都合や、不可抗力や災害や事故で。

何を人生において優先させるか。

特に年上の友人や恩師との時間は、
自分が優先させたいと思った時は、心に従おうと誓いました。

 

 

 

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